九月の飛び石連休のある一日、
私は東京メトロ有楽町線木場駅からほど近いドトールで新聞を読んでいた。
暑いコーヒーを飲みほしながら
「しけていやがる・・・」
とひとりごちながら日経新聞の経済面に目線を滑らせていた。
約束の時間からしばらく経つがまだ待ち人はやってこない。
携帯のメッセージが来ていないことを確認してからふと目をあげると、
入り口の外でビニール傘をさしながらじっとこちらを見ながら待ち人が立っていた。
私はモーニングセットのプレートを下げ膳口に下げ、ゆっくりと店外に出た。
「遅かったですね」
「おう」
待ち人ことY師匠と木場のトヨタレンタカーでラクティスを借り、カーナビの行き先検索で私は「こうふえき」と入力した。
そう、今日は山梨にいくのだ。
ちなみに先週土日も山梨に行っていたので二週連続で山梨にいくことになる。
さすがの私もここまで短いスパンで山梨を再訪するのは初めてだった。
というか人生でも数えるほどしか山梨に行ったことはない。
なぜまた山梨にいくかというと、前回エントリーで書いた甲府の吉田うどん屋「とだ」にリベンジするためだ。
前回は時間の都合上とだに行くことができなかったのだ。
お昼の営業が14時くらいまでなので、11時に東京を出れば十分間に合う算段だった。
私とY師匠は食べ損ねた吉田うどんに思いを馳せ、
「ようやくあのとだに行けますね。三度目の正直だ」
と今から吉田うどんの味を想像しては唾液が止まらない状態になっていた。
そのとき、甲府駅までの到着予想時間がカーナビに表示されたとき我々は目を疑った。
「到着予想時間: 14時36分」と画面には映し出されていた。
「な……ん、だと……?」
Y師匠は明らかに動揺したようだった。
東京から山梨まで3時間半もかかるはずがない。
順調に中央道を飛ばせば2時間もかからないはずだ。
「くそッ、このナビ壊れてやがる! masakuroy、お前のケータイ地図アプリ入ってないか? それで調べてくれ」
私は言われた通り携帯の地図アプリで調べてみると到着時間は13時30分くらいだった。
「師匠、地図アプリのナビでは13時30分と表示されてます。 これからギリギリ間に合いそうです。 急ぎましょう!」
「わかった。 じゃあ早速行こう。 俺はお前のナビを頼りにいく。 しっかりナビ頼むぞ」
我々は首都高に乗り、中央道を目指した。
「次の分岐路まで900m、800m….いま750mです」
「いいぞ、いいナビだ。 でも100m単位での案内は要らないぞ」
そんなやりとりを続けながら我々は山梨へと続く中央道を快調に飛ばした。
途中事故渋滞に巻き込まれ思わぬロスもあったが、概ね順調な旅程だった。
談合坂付近で進路が右ルートと左ルートで分かれている。
Y師匠にどちらのルートがいいか聞かれ、どんな違いがあるのか聞いたところ特に違いはないということだった。
談合坂の名前の由来は、北条氏と武田氏が和平の交渉をした場所だからとか、
桃太郎が猿きじ犬にきびだんごをあげた場所だから「団子」が「談合」に変化したなど諸説あるらしい。
そのうち多摩丘陵の山間の道を抜け、山梨のなだらかな平野が眼前に広がってきた。
そのうちY師匠が学生時代を過ごした街にさしかかり、
竜王駅の神社の境内裏で女子高生と××したとか、
ドラックストアで自転車をパクったとか、
「南の風 風力3」というホテルをよく使った、懐かしい、けど”風力3”
てなんなのか未だによくわからない
とか色々な話をしてくれた。
誰にとっても青春時代を過ごした街は大切な思い出があり、いつ来ても特別な感情が去来するものなのだろう。
Y師匠が通った大学の大学生の集団が、部活の練習後に昼飯を食べにいくのだろうか、
談笑しながら歩道を自転車で走っていった。
そうこうしているうちに善光寺に続く道の坂を登りきったあたりにある「とだ」に着いた。
1時半くらいだったが車はほぼ満席で、混雑していた。
とだの暖簾をくぐると畳にテーブルが5、6脚並べられており、家族づれや学生がうどんをすすっていた。
中もほぼ満席近い。
Y師匠ととだの主人は学生時代からの付き合いて懇意らしく、
「久しぶりだな!」
「いまどこに住んでんだ? 東京?」
「まだ結婚しねぇのか?」
など世間話に花を咲かせていた。
テーブルにつき、我々は吉田うどんと替え玉を注文した。
そうして席で待つこと10分、出て来たのがこれである。
すごい迫力だ。
その器からはみ出さんばかりの具に圧倒されそうになる。
替え玉が食べられるのか若干不安にもなる。
隣のテーブルでは体育会系の細身の大学生(おそらくサッカー部か陸上部であろう)が
なんでもないように替え玉を掻き込んでいる。
若いというのは素晴らしいものだ。
早速器からはみ出さん限りの具を食べて見る。
キャベツがよく茹でてあり食べやすい。
肉もこれは馬肉なのかな? 見た目よりもボリュームが少なく、味が染み込んでいて美味しい。
かき揚げも根菜類ベースで美味しい。
いかん、すごいありきたりな感想しか言ってない。
これでは食レポ失格だ。
具をかき分けるうちに姿を現した極太の吉田うどんに手をつけ始める。
・・・むっ!! これはっ!!・・・・
出来合いでは出せない絶対的な”うどん”感!
作った人の顔まで浮かんでくるような絶対的な手作り感が半端ない。
さっきまで丹精込めてこねていたうどんを速攻包丁で切り、さっと湯を通してからうどんの汁にぶち込んだような絶対的な”ライブ”感がとてつもない。
いかん、さっきから”絶対的”って言葉使いすぎてる・・・ これは伝わっているか不安だ。・・
とにかく、讃岐うどんに代表されるうどんを想像している人は度肝を抜かれるだろう。
柔らかくてもちもちしていて、ちゅるんと爽快な喉越しを想像している人は見事にその期待を裏切られるだろう。
吉田うどんは固く、しっかり力に入れて噛まないとかみきれない。 まるでうどんというより原料の小麦をそのまま食べているかのような、食感に圧倒されること請け合いだ。
しかしうどんの汁がしっかりと麺に染み込んでいて、うんまい!
ちなみにうどんの汁も讃岐うどんのように透き通っている感じではなく、二郎ラーメンのような濃厚で色も濃い汁である。
うどんをしっかり咀嚼しながら食べているとY師匠が。
「そんなしっかり噛んで食べてるとトーシローやと思われるで。
すぐ食えんくなるぞ。
吉田うどんは噛まんと飲み込むんや。 うどんは喉越しやで」
「30回以上よく噛んで食べなさい」と家や学校で教育されてきた私は、そのコペルニクス的発想の展開に「そういうものなのか!?」と困惑したが、
いざ噛まずに飲み込んでみるとなるほど、うどんが喉を通り抜けていく感覚がなんとも言えず気持ち良い。
まさにうどんを食べずに”飲んでいる”という感覚だ。
そんなこんなで暴力的な見た目とは裏腹に気づいたら我々は吉田うどんを完食していた。
腹持ちはものすごいよく、これでしばらく腹は減りそうもない。
夜ご飯もいらないかもしれない。
こうして我々は山梨に来たもう一つの目的であるライブを見に、韮崎は東京エレクトロン文化ホールに向かった。
韮崎とはあの世界のHIDEこと中田英寿の出身地である。
韮崎も「サッカーのまち・にらさき」と銘打っているがそんなにサッカー感はない。
そう、我々はLittle Glee Monsterのライブを見に来たのだ!
説明しようLittle Glee Monsterとは日本全国の歌うまい少女たちで結成された本格派ヴォーカル・グループである。
いや〜ほんと超よかった〜!!
一人一人で歌っても超うまいのにハーモニーとか超きれいだし〜!!
もう地元の女子中高生で会場埋め尽くされている中の三十路おっさん二人組はノリノリで聴いてましたよ!
しかも「青春フォトグラフ」では写真撮影OKという大サービス付き!!
いや〜もういい子たちだし歌うまいし最高でした!!
是非皆さんも是非Little Glee Monsterこと「リトグリ」聴いてみてください!