ハワイ最終日。
パラセイリングやトレッキングなどアクティビティを終え、我々に残された最後のイベント。
それは新郎新婦を囲んだ食事会だ。
食事会には、我々はもちろん新婦の友人も出席する予定だ。
リゾートでのラストナイト、ここはハジけない手はないー。
翌日からは日常へとバック・トゥ・ザ・リアリティーツアーが待っているのだ。
夢のような楽園での現実からの逃避行ー。
つまりそれはハングオーバー。
「ハングオーバー!ハングオーバー!」と口癖のように言っていた我々も三十路半ばのおっさん、
ハングオーバーなノリについていけるのかー。
そして何よりも懸念すべきは翌日のフライトが早いー。
それにもし乗れないなんてなったら日本帰れないじゃん! やばい!ー。
というハングすべきか? それとも大人の対応するか?
という2つの解の狭間で揺れ動く乙女心的なそんな新境地になっていた。
そして我々は新郎新婦が予約してくれた食事会場に足を踏み入れた。
そこは「MAC 24/7」という24時間営業のレストランで、超特大パンケーキを出すことで有名らしい。
席に案内されると、そこには中華料理店を思わせる円卓のテーブルだった。
おぉ、こういう席かー!
まだ新郎新婦も新婦友人も到着してなかったが、とりあえずなんか飲むかと一杯目を注文するミソジーズ。
ちなみにこの食事会の内訳を説明すると、男側は私を除いて皆既婚者であり、新婦友人の女性3人は皆独身だという。
なんと! ということは独身者の割合は男:女 = 1:3!!
こ、これはなんとおいしいシチュエーション!!
3人の女性に対してプレゼンできる独壇場を与えられているようなものだ。
レディース・アンド・ジェントルメン! ウェルカムアボード!って感じですな!
・・・ということを頭の中で妄想しているうちに新郎新婦と新婦友人がやってきて、皆で乾杯をした。
この女性たちは昨日の結婚式でハイビスカスの髪かざりを右耳につけていた女の子達なのだ。
※説明しよう ハワイでは未婚の人は右耳に、既婚の人は左耳に髪飾りを指すのだ。
そんなこんなで新郎新婦を囲んだ食事会が始まったのだった。
皆は皆で私にパスを出しアッピールタイムを創出することに躍起になってくれているだが、もともと顔見知りであるしカタい性格の私はそんな気の効いたことも言えず、可もなく不可もなくなトークを展開していた。
そもそも明石家さんまでもないのだがら若い女子が喜ぶトークのネタなどしらんのだ。
私がせめてできることは新郎新婦のラブラブ(死語?)エピソードを引き出すことや、新婦友人の趣味や仕事など差し当りのないことを聞いたりするだけである。
そんなこんなで予定調和の会話を展開しながら酒も進んでいった頃、私の中の悪魔が囁いたー。
ーぶっこんでやる。 この場の空気が一瞬で変わるような話題をぶっこんでやる!ー。
酒の力も手伝ってか私の中では遊戯王のデュエルのごとき緊張感が高まっていた。
こんなことをこの楽しげな雰囲気の中言うべきではないー。
しかしテキーラのショットを二杯(一杯女の子の分も飲んだ)、ウィスキーのロックダブルを飲んだ私はすでに酩酊状態になっており正常な神経が働いていなかった。
気づいたら私の口は勝手に口走っていたのだ。
「〇〇ちゃんたちもさー、今年29じゃん? 結構いい年じゃん。
ぶっちゃけ●●ちゃん(新婦)も結婚して焦りとかあったりすんの?
将来のビジョンとかどう考えてんの?(原文ママ)」
ウザ。
もうこれメガンテですよね。 メガンテ。 しかも誰一人救わないメガンテ。
こんなこと言ってくるやつ絶対ウザイわ〜となる最大級のコメントをぶっこんでしまったのです。
そしてダサ。
既婚者が言うのもそれはそれでウザイけど言ってるのは32歳独身の男ですからね。
自分のこと棚に上げて何を口走ってんのお前?そんなこと言えた口なのお前?
というレベルです。 放送事故ですこれは。
私は酔っ払っていたのもあり、自分のコメントがどう言った事態を引き起こしたのかその時はわからなかった。
しかし後日「なぜmasakuroyがあの時あんなに女性陣に対してオフェンシブになったのかわからなかった。確実に空気を変えたのは確か(K談)」というコメントを頂戴している。
その後、おそらくはやんわりと流されたのであろう、我々は新郎新婦が宿泊するホテルのスィートルームで飲みなおすことにした。
私はそのホテルに着いた後の記憶がほぼない。
後から見せられた写真を見ても全く覚えてない。
ただひとしきり騒いだ後2時間ほど寝ていたようだ。
なぜか自分が着ていた服を脱ぎ新郎Tが着ていたアロハシャツを着て床に寝ていたようだ。
ちなみに顔に乗せられているのはどうやら生ハムのようだ。
自らの命を賭して戦った戦士へのせめてもの手向けなのだろうか。
完全なるハングオーバーをぶちかましてしまったが、Sに起こされ奇跡的に目を覚ました私は、明け方サンドヴィラに舞い戻った。
自分の部屋で放心するmasakuroy。
まるで死期が迫った老年の猿のようだ。
何時間か寝たこととリバースしたことで若干回復したのかなんとかフライトまでに空港にたどり着いたが、フライト待ちのスタバで撃沈している私とM。
死んでいる。
完全の死の空気が空間を支配している。
スタバの木のテーブルまでもがまるで朽ちていくようだ。
こんな状態でよく日本まで帰れたものだ。
帰りの飛行機に乗り込んで座席に座った後も、Mから「酒臭っ!」と言われたが私にはどうすることもできなかった。
せめて私にできることはできるだけ呼吸をしないことだった。
ハワイから離れ、太平洋上を飛行している時もハワイの思い出が胸を去来していた。
もう経験することもないと思っていた最上のハングオーバー・イン・ハワイも経験できた。
やり残したと思ったことが一切ない、最高のハワイツアーだった。
僕はこれから先の人生またハワイに行くことはあるのだろうか?
それはわからない。 しかしこんな楽しいハワイはおそらくないだろう。
私が新婦友人に発した重度のセクハラとも捉えられかねないコメントー。
本当に申し訳ないと思ったが、後悔の念は微塵もなかった。
それどころか、言えなかったら絶対後悔していただろう。
昔反町隆史が歌っていた「言いたいことも言えないこんな世の中じゃー ●イズン」。
言葉のほんの切れ端を拾われて、周りからコテンパンに叩かれるこんな時代だからこそ、言いたいと思った。
それが後々トラブルを招く事態になったとしてもー。
そしてそのコメントがそっくりそのまま自分に跳ね返ってくることを知っていたとしてもー。
ハワイはきっとそんな勇気をくれたんだと思う。
ハワイカイから姿を見せてくれたイルカたち。
ダイヤモンドヘッドの真上から見たハワイの美しい海と山。
ワイキキビーチで突如姿を現した巨大な虹。
私がぶっこんだコメントをした後のキョトンとした女性陣の顔ー。
その全てを私は忘れないだろう。
そう思いつつも記憶は日々の生活で摺り切れ、原型をなくしていくのだろう。
楽しかった記憶はいつか色褪せる。
色褪せて欲しくないと人は願う。
しかしそれでいいのだとも思う。
楽しかった記憶はなくなるわけではなく、心のどこか深い場所にしまわれていくだけだ。
思い出したくなったら、ある合言葉とともに取り出せばいいのさー。
そう、いつかまた会う日までー。
コオリナ・ボーイズ 完
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