高田馬場は私にとってあまりなじみのない街だった。
早稲田大学の町という印象が強く、こう言ってはなんだがわざわざ足を運ぶ理由もあまりなかった。
ただ私が務める会社から近く、会社の先輩御用達の居酒屋もありごくたまに行くことはあった。
その時の印象として学生街特有の雑多な感じ、いい意味の都会ぶらない親しみやすさがなんとなく肌に合い気になっている街でもあった。
そんな折、たまたま手に取った駅のラックに置いてあるフリーペーパーが高田馬場特集で、その中でもジャズバーを紹介しているページに心惹かれた。
じっと聴き入る!ジャズの調べに酔いしれて[眠たくなるまで、高田馬場]|metoropolitana.tokyo[メトロポリターナトーキョー]
高級な年代物のスピーカーからジャズの名曲が流れる昔ながらのジャズ喫茶、夜な夜なプロアマ問わずフリーセッションが行われるジャズバー。
かの村上春樹も早稲田大学在学中にジャズ喫茶を営んでいたというエピソードを思い出し、そういった文化の匂いを感じたくなった。
友人を誘って高田馬場のジャズバーに行ってみることにした。
土曜日の18時過ぎ、日は完全に沈んでいるが駅前のロータリーは電飾看板に溢れとても明るい。
電飾看板には安居酒屋チェーンに混じって「学生ローン」と書かれたものもちらほらあり、今時なかなか見ないなと感じた。
これも高田馬場特有の光景なんだろうか。
友人と落ち合い馬場口方面に歩いていくとほどなく目的地にたどり着いた。
”intro”と黒地に赤文字で書かれた看板。
お店は地下だ。
ここは高田馬場で長く営業しているジャズバーで、週五日ジャズセッションが行われているらしい。
土曜日は開店した17時から日曜の始発までぶっ続けでジャズセッションが行われてるらしい。
すごい。
階段を降りてすぐある入り口の重い扉を開くとジャズセッションの真っ最中だった。
ライブスペースとテーブル席が4つほどと、カウンターのこじんまりした店内だが、ライブスペースの距離が近く手を触れられそうな距離で演奏しているので迫力がすごい。
友人とテーブル席に座るとマスターが注文をとりに来る。
フリーペーパーに写真が載っていたゴッド井上さんだ。
ワンドリンクつきの入場料千円は前払いで、我々はビールを注文した。
気さくな井上さんは笑顔で「お客さんはなんか演(や)るの?」と聴いてきたが、僕らはジャズのジャの字も知らないズブの素人なんです、すいません。
サックス、ウッドベース、ドラム、ピアノで構成されるセッションがブルージーな音色を聴かせてくれる。
プレイヤーが奏でる音楽は有機的に絡み合い、まるで生き物のようにビートとなってその場に脈を打っていた。
ウッドベースのボン、ボンという低音の地を這うような心地よい響き。
ジャズドラム特有の先が細かく割れた、ホウキのような形状のスティックが刻むジャズならではのリズム。
ピアノの美しく繊細かつ魅惑的な旋律。
そしてサックスが奏でる表情豊かで力強い「これぞジャズ!」といったブラスサウンド。
恥ずかしながら基本的なジャズの聞き方もわからなかった!
アドリブのイメージが強いジャズだが一定のルールがあるらしい。
定番曲を1コーラス演奏したあと、アドリブに入っていき各楽器のソロパートになる。
ソロが終わったタイミングで拍手が起こり「yeah!」といった掛け声をかける。
ジャズを聴くことに慣れていない自分にとってはとても新鮮で面白かった。
この拍手と掛け声はプレイヤーだけでなく、聴いているだけのオーディエンスも一緒に曲に参加しているような一体感があり、とても心地いい雰囲気を演出していた。
セッションは10分足らずで終わりプレイヤーが入れ替わり立ち代り参加する。
特にマスターのゴッド井上さん自らが奏でるサックスは深みと独特の枯れた味わいがあり、それでいて艶っぽく惚れ惚れと聞き入ってしまった。
2時間ほどセッションに聞き入った後店を後にしたが、気さくなマスターは名刺を渡してくれて「またきてね」と笑ってくれた。
ジャズの旋律と洗礼を体いっぱいに浴びた我々はどこか浮足だってふわふわした感覚があったが、何回かいった事のある先輩御用達のやきとんや「高田屋」で焼き豚串とホッピーで一杯やった。
ジャズの感想をくっちゃべりつつ安くて美味いやきとん串をかじりながらホッピーで流し込む。
庶民的で適度に近い距離感がいいこのお店は、ステンレスの小さなトレイで出される一品一品の味付けがちょうどよく美味い。
店内のテレビでは若手主体のサッカーの代表戦がやっていた。
3人で腹一杯飲んで食べて9千円いかない。
さすが学生の味方高田馬場のお店だけあって懐にとっても優しい。
店を出る頃には本格的な冬の寒さを感じたがホッピーであったまった身体には心地よく感じられた。
ジャズを勉強してからまたイントロにセッションを聴きに来よう。
そしてまた高田屋にやきとんを食べに来よう。
親しみやすく活気のある街、高田馬場の魅力をもっと掘り起こしてみたくなった夜だった。
学生ローンのネオンさえどこか温かみを残す高田馬場の昭和の風情を色濃く残す街並み。
いつまでもこの風景は変わらなければいいのに、、、、
そんなことを思いながら高田馬場を後にした。
以上SUUMOの広告記事を意識して書いてみた私小説風ブログでした。
「はたらく」と「ゆったりする」をバランス良くできる街、尾山台-SUUMOタウン
完
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